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蒼の十字架44
「まぁ、真面目な話、リノだけ行って王子と接触したらリノの職業柄、藍も蒼が何か仕掛けてくると思うかも知れないだろ?だから、蒼の人間も着いていく必要はある」 

「最初からそれ言いなさいよ……」

「いや、俺が蒼の人間なんて証明出来ないだろ?」

「藍に入れた時点でそうだから」

「は?」

「あそこ、特別な魔術を使うお方がいてな。他国の人を入れない結界……簡単に言えば見えない壁を作ってるから」

「凄い人がいるもんだな……ん?じゃあ、逆にリノって入れるのか?」

「私は許可もらってるからね。関所で手続きは必要だけど」

「なるほどね」

「さて、いいか?今日の段取りをまとめるぞ。もう昼過ぎてるんだ」

ユウジの質問がまるで時間の無駄だったと言わんばかりにナオナリが話を戻し、進めた。

「俺は猟兵の一件があるから城から離れられないだろう。逆に言えば常に俺は城にいるってことだ」

「つまり、なんかあったら連絡しろってことね」

「そういうこと。サクさんは忙しいだろうからな」

ナオナリの発言にサクはすぐに否定を入れ、リノに頼み込んだ。

「待て、リノ!俺にまず連絡しろ!何かあったらすぐ駆けつける!」

真剣な表情で言われてリノは戸惑いつつ、ちょっと嬉しい気持ちがわいていた。
確かにセリフだけ聞けば女性は勘違いする。
もちろん、リノは勘違いはしてないし、サクの発言の本心も分かっていてだが。

「いや、サクさん……そんなサクさんに直にやり取りなんて便利なこと出来ませんから」

「一応、サクさんの地位的には宛てにすれば出来るけどな。サクさんは城に帰ったらそれどころじゃないはずだ」

ナオナリの指摘通り、サクが城に帰ったら、まず王子のことでの対応をして各部に連絡を取り仕切る。
更に翠に向かっている部隊とのやり取りなどやること、というかやらされることは数知れない。

「というわけで俺も何が出来るわけではないがなんかあったらそれなりのやつを送るから」

「それなりってハヤトいないんでしょ?ルイとか?」

「ルイもいない。一緒に行ってるから」

「バカじゃないの?危機感なさすぎじゃない。後、誰かいるっけ?」

「それだけ王子の見合いはうちにとっては重要だから」

リノが悪態をつくのでユウジがフォローする。
ナオナリはそれに対して適当に返事をしてこの場は解散となった。
もちろん、リノはナオナリの援護は期待しないことに決めたのは言うまでもないだろう。


蒼の十字架43
「サクさんが行ったら大問題だろ」

「ほんと……自分の立場を分かってください」

「やっぱり藍でも蒼の役職というか重要な人物は把握してるのか?」

「そりゃあな、元々っつーか蒼の一部ではあるし」

サクは王子の側近なため、他国でも顔は割れている。
そうでなくても城に仕える中でも上の立場だ。

「ナオナリがダメでサクさんもダメとなると……」

ユウジが恐る恐る言うと……

「お前しかいないな」

ナオナリが呆気なく名指しした。

「いや、待て。さすがに怖いぞ?」

「戦いに行くわけでもあるまい。まず王子を見つけて事情を聞く。それだけだ」

「いや、引っ捕らえて引きずってでも連れて……!?」

サクの発言の最中にリノが口を塞いだ。
一応、布をつける配慮もしていた。

「でも一応、王子の存在がバレでもしたら事態は大きくなるし、私も着いてく。適任でしょ?」

「まぁ、リノの戦闘力と速さなら適任だがユウジと二人っきりを狙ってるのか、女狐」

「違うわよ!」

「今は冗談はほどほどにしといてリノだって顔は割れてる。入れるのか?」

「一応、情報提供で足を運んでる。依頼もあるしね。藍のプラス情報もあるし、対応は可能だと思うわ」

「じゃ、藍にはユウジとリノに行ってもらうとして……」

次の段取りに移ろうとしたナオナリに対してユウジがストップをかけた。

「俺が行く必要ってあるのか?」

「あん?」

「いや、リノ的にも一人の方が動きやすいだろうし、王子とも認識はある。サクさんが行くならまだしも俺が行ってなんか役にたつのか?」

「お前な、女狐の気持ちを考えろよな」

ナオナリが言い切ったところで先日、猟兵と戦った後に茶屋場の看板娘に話を聞いてた際にサクに投げつけたオモチャの小刀を投げつける。
だが、ナオナリは同じような小刀で弾いてみせた。
リノの苦虫を噛んだような顔と涼しげなナオナリにユウジは苦笑するしかなかった。


蒼の十字架42
切り出していいものか悩んだがサクが顔をあげた際にユウジが聞いた、ナオナリの聞けという視線を感じて仕方なく。

「えっと、何か心当たりが?」

何か、と聞くより切り込んでみた。
というか何かあるぐらいサクの反応で馬鹿でも分かる。

「多分、リノが見た女性は藍の人だ」

そもそもなぜ藍という言葉がキーワードになっているかがここら辺で紐解いていかなければならないのだが、その点について一番疎いユウジがそのことを聞いてみた。

「藍って結局、どういう場所なんですか?」

「そっからか」

ナオナリが若干、呆れたような声を出した。
ただ藍に関しては蒼の人間も知らない人間の方が多い。
名前ぐらいはって人も探すのも大変だろう。
大体、一般的に藍の区域内辺りには近づくなと言われているに過ぎず、その実態を知ろうとする者もいない。
いたとしても誰も知らないから話にならないし、知っている言わば蒼のお偉いさんと話す機会を持つものは少ないため、結局はほとんどの人はユウジ状態だ。
いや、ユウジは藍の名前を知っていたため、これでも分かっている分類に入るだろう。

「藍は元々、蒼の国の支配下だ」

「最も藍という国は存在はしてない。文面では一応は蒼の国の一部という扱いにはなっている」

ナオナリとサクが交互に説明をし始める。

「国ではない?」

「あぁ。蒼の一部の一族が独立し、あの一帯に自分たちの敷地を作り上げ、暮らしている」

「ただ、国と認められる基準を満たしてないうえにほぼ蒼の今の国王たちと仲違いで勝手に作った場所なだけに蒼であって蒼ではない。だから藍と別の呼称をつけたんだ」

「なるほど」

ユウジが二人の説明で納得しているがリノが不思議そうにナオナリを見ていた。
その視線に気づいたナオナリはリノが聞いてくる前に聞いた。

「なんだ女狐、俺にまで好意を持つなよ。今の状態でさえ俺はヤキモキしてるんだが」

「違うわよ!サクさんはともかく、なんでナオナリさんがそんなに詳しいの?」

「あん?女狐、知らないのか?」

「えっ?」

ナオナリが本当に意外そうな言葉にサクが続いた。

「ナオナリは藍の出身だからな」

「出身って言い方もおかしいですけどね」

「えっ!?ナオナリさん、藍の出なの?」

「なんだ、女狐。本当に知らなかったのか?」

「私、情報を集めるのが仕事だけど知り合いの過去とか素性とかは私の意志では調べないからね」

「じゃあ、ナオナリが行けばいいわけか?」

「アホ言うな、ユウジ。なんで藍が蒼から言わば独立的なことをしたと思ってるんだ。その藍から出て蒼の兵士をやってる俺が藍に言ったら門前払いか二度と出られないように拘束されるわ」

「そんなにおっかない人の集まりなのか?」

「全員がそうではないが俺の実力で少しは分かるだろ?」

ナオナリの実力が基準にされたら本当にただのおっかない人の集まりでは過ぎないが、やはり一筋縄ではいかないようだ。

「とにかくいる場所が分かった以上は行くしかない!」

勢いよく立ち上がるサクをナオナリとリノが速攻で止め、抑える。
一連の行動の三人のそれぞれの速さにユウジは呆れるほかなかった。


蒼の十字架41
「あとね……」

「まだあるの?」

つい、ユウジの目が細くなった。
そりゃ、次々と情報が出るのはいいが解決に向かわなければ意味がない。

「一人じゃなかったの」

ユウジとナオナリが固まった。
ちなみに先ほどから発言してないサクは拳を握りしめてみんなの話を聞いていた。
言いたいことなどはあるみたいだが必死に自我を保ち、抑えて今の情報を整理していた。
だがもう我慢の限界だったみたいだ。

「だ、誰と一緒だったんだ?」

口調というかサク本来の喋り方を維持はしていたが表情はもはや何とも言えなかった。
三人はサクさん、物凄く必死だな……とかなり同情していた。

「女性だったわ。私は知らない人だったし、少なくても蒼の人間ではないというのは断言してもいいわ」

「まぁ、リノなら蒼の人間は分かるだろうしな。リノでも分からないとなるとそれもまた不思議だな」

ユウジの発言はリノの情報通としての職業柄というのも意味している。
しかし、ナオナリは別のところが引っ掛かった。

「なぁ、何で相手は女性って分かったんだ?」

「いや、見れば性別くらい分かるだろ」

ユウジの言葉にナオナリはすぐに反論した。

「だって王子は仮面してたんだろ?その相手はしてなかったのか?」

ナオナリの言葉にユウジも納得した。
流石に考えや話の要所を抑えるのが上手い。

「その相手は仮面はしてなかったわ。でも目の辺りは隠してた」

「じゃあ、リノが女性と判断したのは?」

「背丈が低かったのもあるけと一番は口元ね。特徴的なやや青に近い太陽の光で光ってたのが印象的だったわ」

「なんだって!?」

リノの女性の説明に強く反応したのはサクだった。
正直、ユウジもナオナリもそしてリノも今の情報で何がサクに引っかかったのか分からなかったがサクは大声を出した後に頭を抱えて呟いた。

「あのバカが……」

その声はか細かったが三人にはとても悲痛に響いたのだった。


蒼の十字架40
「王子って確か靴にこだわりありませんでした?」

「あぁ、靴だけじゃなく服装にはうるさいからな」

「サクさん、その日、王子と出会った人に履いてたもの聞いてます?」

「いや、そこまでは流石に……」

「今から確認に行く?」

「その必要はないわよ」

ユウジの提案にリノは真っ先に否定した。
つまり、確認しなくても答えが出てるというわけだが……

「あの日、王子を見たのは城下町での騒ぎの人たち。ハッキリと証言したのは茶屋場のあの子だけだ」

ナオナリがリノが話しやすくするために話をまとめに入った。

「つまり、城の関係者たちは出かける際の王子を見てないんだ。なんで茶屋場の娘に聞かずとも言い切れるんだ?」

「言い切れるわけじゃないけど履いてた靴……というか草鞋だったんだけど……」

リノの言葉にまた三人は謎が深まった。
その理由はサクが口にした。

「いや、アイツ……草鞋は絶対に履かないぞ?」

「ですよね。見たことないですね」

「そこなんですよ」

サクとユウジの否定に対してリノがまさにという感じで言葉を返した。

「私が見た人、草鞋を履いていたんです。そして右足首に王子が普段つけている腕輪をつけてました」

リノの言葉にもちろん、三人はそのまま理解は出来なかった。
確かに今、話題の王子はある腕輪をつけている。
ここで簡単に説明してしまえば証みたいなものだ。
だが、それを足首に付け替える意味も草鞋を履いてる意味も分からない。
だが一つ言えることがある。
それをナオナリが確認をとった。

「リノを疑うわけじゃなく、確認だがそれ、本物だったか?」

それ、とはもちろん足首につけられた腕輪を指す。
リノも王子とはサクら同様の付き合いはしてるから実物は見ている。
だからこそのナオナリの質問だ。

「遠目だから……っていう言い訳はさせてもらうけど多分、間違いないわ」

「まぁ、あれは知ってる人が見れば目立つからな」

「となると問題は二つだな」

ナオナリが提示した二つの問題。
リノとユウジがそれぞれ答える。

「なぜ、腕輪を足首につけかえたか?」

「そして普段、履かない草鞋を履いてたか、ね」

「そう。あれは本来、隠すべきものだ。まぁ、王子は気にしてないが……足に付け替えた意味はあるんだろうが……」

「草鞋だと逆に足首は見えるからな」

「そういうこと」

リノが見たのは王子の可能性は極めて高くなった。
だが謎は深まった。




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