蒼の十字架42
切り出していいものか悩んだがサクが顔をあげた際にユウジが聞いた、ナオナリの聞けという視線を感じて仕方なく。

「えっと、何か心当たりが?」

何か、と聞くより切り込んでみた。
というか何かあるぐらいサクの反応で馬鹿でも分かる。

「多分、リノが見た女性は藍の人だ」

そもそもなぜ藍という言葉がキーワードになっているかがここら辺で紐解いていかなければならないのだが、その点について一番疎いユウジがそのことを聞いてみた。

「藍って結局、どういう場所なんですか?」

「そっからか」

ナオナリが若干、呆れたような声を出した。
ただ藍に関しては蒼の人間も知らない人間の方が多い。
名前ぐらいはって人も探すのも大変だろう。
大体、一般的に藍の区域内辺りには近づくなと言われているに過ぎず、その実態を知ろうとする者もいない。
いたとしても誰も知らないから話にならないし、知っている言わば蒼のお偉いさんと話す機会を持つものは少ないため、結局はほとんどの人はユウジ状態だ。
いや、ユウジは藍の名前を知っていたため、これでも分かっている分類に入るだろう。

「藍は元々、蒼の国の支配下だ」

「最も藍という国は存在はしてない。文面では一応は蒼の国の一部という扱いにはなっている」

ナオナリとサクが交互に説明をし始める。

「国ではない?」

「あぁ。蒼の一部の一族が独立し、あの一帯に自分たちの敷地を作り上げ、暮らしている」

「ただ、国と認められる基準を満たしてないうえにほぼ蒼の今の国王たちと仲違いで勝手に作った場所なだけに蒼であって蒼ではない。だから藍と別の呼称をつけたんだ」

「なるほど」

ユウジが二人の説明で納得しているがリノが不思議そうにナオナリを見ていた。
その視線に気づいたナオナリはリノが聞いてくる前に聞いた。

「なんだ女狐、俺にまで好意を持つなよ。今の状態でさえ俺はヤキモキしてるんだが」

「違うわよ!サクさんはともかく、なんでナオナリさんがそんなに詳しいの?」

「あん?女狐、知らないのか?」

「えっ?」

ナオナリが本当に意外そうな言葉にサクが続いた。

「ナオナリは藍の出身だからな」

「出身って言い方もおかしいですけどね」

「えっ!?ナオナリさん、藍の出なの?」

「なんだ、女狐。本当に知らなかったのか?」

「私、情報を集めるのが仕事だけど知り合いの過去とか素性とかは私の意志では調べないからね」

「じゃあ、ナオナリが行けばいいわけか?」

「アホ言うな、ユウジ。なんで藍が蒼から言わば独立的なことをしたと思ってるんだ。その藍から出て蒼の兵士をやってる俺が藍に言ったら門前払いか二度と出られないように拘束されるわ」

「そんなにおっかない人の集まりなのか?」

「全員がそうではないが俺の実力で少しは分かるだろ?」

ナオナリの実力が基準にされたら本当にただのおっかない人の集まりでは過ぎないが、やはり一筋縄ではいかないようだ。

「とにかくいる場所が分かった以上は行くしかない!」

勢いよく立ち上がるサクをナオナリとリノが速攻で止め、抑える。
一連の行動の三人のそれぞれの速さにユウジは呆れるほかなかった。


蒼の十字架41
「あとね……」

「まだあるの?」

つい、ユウジの目が細くなった。
そりゃ、次々と情報が出るのはいいが解決に向かわなければ意味がない。

「一人じゃなかったの」

ユウジとナオナリが固まった。
ちなみに先ほどから発言してないサクは拳を握りしめてみんなの話を聞いていた。
言いたいことなどはあるみたいだが必死に自我を保ち、抑えて今の情報を整理していた。
だがもう我慢の限界だったみたいだ。

「だ、誰と一緒だったんだ?」

口調というかサク本来の喋り方を維持はしていたが表情はもはや何とも言えなかった。
三人はサクさん、物凄く必死だな……とかなり同情していた。

「女性だったわ。私は知らない人だったし、少なくても蒼の人間ではないというのは断言してもいいわ」

「まぁ、リノなら蒼の人間は分かるだろうしな。リノでも分からないとなるとそれもまた不思議だな」

ユウジの発言はリノの情報通としての職業柄というのも意味している。
しかし、ナオナリは別のところが引っ掛かった。

「なぁ、何で相手は女性って分かったんだ?」

「いや、見れば性別くらい分かるだろ」

ユウジの言葉にナオナリはすぐに反論した。

「だって王子は仮面してたんだろ?その相手はしてなかったのか?」

ナオナリの言葉にユウジも納得した。
流石に考えや話の要所を抑えるのが上手い。

「その相手は仮面はしてなかったわ。でも目の辺りは隠してた」

「じゃあ、リノが女性と判断したのは?」

「背丈が低かったのもあるけと一番は口元ね。特徴的なやや青に近い太陽の光で光ってたのが印象的だったわ」

「なんだって!?」

リノの女性の説明に強く反応したのはサクだった。
正直、ユウジもナオナリもそしてリノも今の情報で何がサクに引っかかったのか分からなかったがサクは大声を出した後に頭を抱えて呟いた。

「あのバカが……」

その声はか細かったが三人にはとても悲痛に響いたのだった。


蒼の十字架40
「王子って確か靴にこだわりありませんでした?」

「あぁ、靴だけじゃなく服装にはうるさいからな」

「サクさん、その日、王子と出会った人に履いてたもの聞いてます?」

「いや、そこまでは流石に……」

「今から確認に行く?」

「その必要はないわよ」

ユウジの提案にリノは真っ先に否定した。
つまり、確認しなくても答えが出てるというわけだが……

「あの日、王子を見たのは城下町での騒ぎの人たち。ハッキリと証言したのは茶屋場のあの子だけだ」

ナオナリがリノが話しやすくするために話をまとめに入った。

「つまり、城の関係者たちは出かける際の王子を見てないんだ。なんで茶屋場の娘に聞かずとも言い切れるんだ?」

「言い切れるわけじゃないけど履いてた靴……というか草鞋だったんだけど……」

リノの言葉にまた三人は謎が深まった。
その理由はサクが口にした。

「いや、アイツ……草鞋は絶対に履かないぞ?」

「ですよね。見たことないですね」

「そこなんですよ」

サクとユウジの否定に対してリノがまさにという感じで言葉を返した。

「私が見た人、草鞋を履いていたんです。そして右足首に王子が普段つけている腕輪をつけてました」

リノの言葉にもちろん、三人はそのまま理解は出来なかった。
確かに今、話題の王子はある腕輪をつけている。
ここで簡単に説明してしまえば証みたいなものだ。
だが、それを足首に付け替える意味も草鞋を履いてる意味も分からない。
だが一つ言えることがある。
それをナオナリが確認をとった。

「リノを疑うわけじゃなく、確認だがそれ、本物だったか?」

それ、とはもちろん足首につけられた腕輪を指す。
リノも王子とはサクら同様の付き合いはしてるから実物は見ている。
だからこそのナオナリの質問だ。

「遠目だから……っていう言い訳はさせてもらうけど多分、間違いないわ」

「まぁ、あれは知ってる人が見れば目立つからな」

「となると問題は二つだな」

ナオナリが提示した二つの問題。
リノとユウジがそれぞれ答える。

「なぜ、腕輪を足首につけかえたか?」

「そして普段、履かない草鞋を履いてたか、ね」

「そう。あれは本来、隠すべきものだ。まぁ、王子は気にしてないが……足に付け替えた意味はあるんだろうが……」

「草鞋だと逆に足首は見えるからな」

「そういうこと」

リノが見たのは王子の可能性は極めて高くなった。
だが謎は深まった。


蒼の十字架39
「それは本当にあのバカだったのか?」

少し正気に戻ったサクがリノに問いかける。
そう、サクが正気を取り戻すほど王子を見た場所はかなり重要だったりするのだ。

「さっきも言ったけど顔は見てないから断定は出来ない……」

だが先ほども書いた通り、その手のリノの感性は人並み以上。
職業柄とサクを思って確信がない以上は決めつける言葉は言わないが……

「雰囲気なんて確かに曖昧だ。リノならほぼ間違いないとは俺は言えるが背格好とか顔以外の見た目からでもお前ならきちんと判断出来るだろ」

そう言ったのはナオナリだ。
ナオナリなりにサクには気を遣ってるが王子を見つけない限り、事態は悪くなる一方だ。
なら、多少踏み込んででもリノにはハッキリと言ってもらわないと話が進まない。
もちろん、リノが言えないのも分かるし、自分がその立場だったら気が引けるのも確かなのだが……

「王子の特徴はやっぱり髪と左腕の腕輪ですよね」

「まぁ、腕輪は服装とか次第じゃ簡単に隠せるけどな。その人物、つけてたのって仮面だけか?」

ユウジの言葉に付け足すようにナオナリが続いた。

「というかあの腕輪隠せと何度言ってると思ってんだ……!」

リノが喋る前にサクの沸点がまた上がった。
昨日の昼間の茶屋場の娘がその腕輪を目撃しているのを思い出したのだろう。
後述はするが重要な物である。

「えっと、悪いけど私がここまで断定出来ないのはそこなのよ」

「つまり両方、分からなかった……か」

「完全に雰囲気だけ……でもリノはそれが王子だって思ったんだろ?何となくの雰囲気だけで言うか?」

ユウジの指摘通り、今、蒼の事態は色々と起きている。
ここでそんな曖昧な王子情報を出したら蒼の重鎮であるサクはこうなるのも察するところだろう。
つまり、リノには少しだが確信が持てる理由があったと言える。
軽はずみで言うやつでも状況が読めない人物でもないからだ。
三人はリノの少しのためらいが分かり、その僅かが長く感じた。
リノは言わないと始まらないととっくに察していたがここである意味、言う覚悟を決めた。


蒼の十字架38
「リノ!」

「は、はい!?」

急に覚醒し、立ち上がったサクは場所を考えずにリノの名前を叫ぶ。
まぁ、最も誰もこの程度の声では気にしないほど外が作業でうるさいため問題はない。
そもそも普段から活性化されているこの町において静かな場所はある意味、一番は城かも知れない。

「どこで……どこであのバカを見たんだ!?」

今更ではあるが皆が王子に対しての言動があまり不適切でないのは王子の性格たる所以だ。
しかもサクと王子は実は同じ年でもあるため、公共の場以外では特に下としての発言はしない。

「落ち着いてください、サクさん」

「サクさんにそんな言い寄られたら女狐はキョドって話せないですよ」

「キョドらないわよ!」

「キョドるってどういう意味よ?」

「ユウジさんは黙ってて!」

ナオナリはマジメな話をしたいのか場をかき回したいのか真意は不明たが一つ確かなことはリノをからかうのは好きらしい。

「いいから、いつ、どこだ!?」

サクは王子のことで頭がいっぱいらしい。
これは流石に喋らないとサクの人格がこれ以上の崩壊を招くだろう。
そう判断した三人、ユウジはもちろん、ナオナリも黙ることにしてリノが話せる雰囲気を作った。

「正確には王子らしき人物よ。顔は知ってるからちゃんと見えれば確信は持てたんだけど」

「ってことは見えなかったのか?」

「なんか変な仮面をつけてたわ。それに職業柄、雰囲気とかを察知するのは長けてるつもりだし……」

それは王子だなっとユウジとナオナリは思った。
サクも呆れるところだがやはりそれどころではないようで追及は続く。

「それで、そんな格好のあのバカをどこで見たんだ!?」

サクの剣幕に押されながらもリノは咳払いを一つ入れてちょっと小さめの声で答えた。

「私がちょうど見かけたのは藍の敷地内に入ろうとしてるところね」

サクも含めて三人は言葉が出てこなかった。
共通して思ったことは、これはまたややこしいことに……だ。
もちろん、リノの情報が違うのを願いたいがこの手のことでリノが間違えるのは正直、考えにくい。




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