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蒼の十字架49
そのタイセイが目を覚ましたのは翌日の太陽がすっかりと昇ってから。
話にすればサクら四人が食事処から解散してユウジのリノは藍へ、サクとナオナリは城へ戻ってきたところだ。

「あ、サクさん!」

城の者がサクが城の門を通ってすぐに慌ただしく駆け寄ってくる。
タイセイが目を覚ましたことを知らせに来たのだ。
だが朝からお偉いさんの小言を聞いて昼に出掛けたサクはこの話を知らなかった。

「タイセイ、なにしたの?」

「なんか倒れてたらしいっすよ」

一緒に帰ってきたナオナリが答える。
どうやら、少しは事情を知っているようだ。

「倒れてた?」

「えぇ、なんか首の辺りに凍傷があったみたいですね」

あっけらかんと話すナオナリにサクは白い目を向ける。

「お前、それって……」

サクの問いかけにナオナリは苦笑して先に歩き出した。
タイセイの話を聞いてからでと言うことを察したサクもそれに続いた。
二人はそのままタイセイが休んでいる間に向かった。

「なんてざまだ」

「一言目がそれかよ」

タイセイは座って薬を塗り直している最中だった。
そこにサクとナオナリが来てナオナリの第一声だった。
タイセイの治療をしている者が二人が来たため、より手早くしてくれて退室。
この部屋には改めて三人となった。


蒼の十字架48
「んー、ここで王子を殺されたらヤバイですねー」

少し遠くの高いところから先ほど王子が城を出るさいに一緒にいた女性がいた。

「チッ、藍のやつか」

「あれー、バレてますしー?それは困りましたねー。ヤっちゃいましょうー!」

女性の姿が一瞬で消えて男の背後に現れる。
手から氷の刃が飛び出し、ひと突きで仕留めようとした。
男がその女性に気づいたときにはもう防御すら取れない体勢だった。

「そこまでだ」

鈍い音と共に男は状況把握に少し時間がかかった。
それもそのはず。
女性の刃から自分を守ったのは今、殺そうとしていた王子だったからだ。

「むー、邪魔しないでくださいー。よその人に藍の人間とバレてる時点で問題になりますー!」

「君が魔術を使うからだろ」

王子が呆れながら言葉を返すと王子と女性はそれぞれ武器をしまった。
しかし、納得のいかないのは緋の人間の男だった。

「なんのつもりだ!蒼の王子!」

「なんのって目の前で人が死ぬのを見て気持ちいいわけがないだろう」

王子の眼はこの男は何を当たり前のことを言わせると言わんばかりの呆れ顔で逆に男の神経を逆なでした。

「ふざけるな!俺はお前を殺そうとしてるんだぞ!?」

「だからってその相手を助けるかどうかは俺の決めることだ。まず、お互いに引け」

女性はニッコリと男に見事な笑顔を見せた。

「ま、王子の手前見逃すけど私のこと喋ったら容赦しないからね?」

「お互い様にしとけよ」

王子が呆れた声で発するがまぁ、この状況下でもお前が一番、理解できないと言われてしまえば誰も否定は出来まい。
男は剣を収め、一歩引いた。

「分かった。今日は引いてやる」

「なかなか話が分かるじゃないか」

「だが覚えとけ、蒼の王子。お前は世界に災厄をもたらす存在だということを」

男がいなくなってから、女性は手の中に隠していたものを広げて確認をとった。

「んー、緋の人間なのは間違いなさそうですねー」

「なんだ、それ?」

「緋の人間がみな持っている証みたいなものですねー」

「ふーん」

「緋の存在は厄介なので一人でも始末したかったですけどー?」

「俺の目が届かないところでやってくれ」

「なかなかの偽善者ですねー」

「一国の王子を捕まえてよく言えるな」

「そんな人じゃないですからねー」

さすがの王子も苦笑するしかなかった。
さて、とマイペースな女性は先ほどの緋の証をしまって王子を促し、歩き始めた。
この後、二人が藍に行くところをリノが目撃したことになる。
これが蒼が猟兵に襲われた日の昼の出来事。
つまり、藍の女性にやられたタイセイが王子に最後に会ったことになる。


蒼の十字架47
そして王子は城下町をいつも通りに歩いていると騒ぎが起きているのに気づいた。
いつもは自分が騒ぎを起こす側だが起きているのはもっと関わりたくなるということで何の迷いもなく、首を突っ込み、結果として一応、人助けとなった。
それから、これから必要な物などを用意して時刻的にいい頃合いとなった。
自らが指定した場所にそろそろ向かおうかというところで人とすれ違った。
その瞬間、一言呟かれた。

「蒼の王子だな?」

王子はさすがに足を止め、その人物を見るため振り返る。
声色的に男というのは分かったが聞いたことのない声だった。

「何かな?」

王子は誤魔化すことなく答える。
それに相手が今度は足を止めた。
そして小さく嫌な笑いをこぼして王子と対峙した。

「認めんの?」

顔を見せた男は今度は苦笑した顔で王子に問いかける。
それに対して王子はらしく答えた。

「隠さなきゃいけないほど悪いことはしてないからね」

「へぇ、蒼の王子は放蕩で有名だが?」

「身内にしか迷惑はかけてない。国はしっかり見ているつもりだけど?」

「ま、そうみたいだな。だからこそ……!」

男は腰につけていた得物を抜いた。
普通の刀みたいに見えるが僅かに剣先に向かうにつれて曲がっているように見えた。

「それ、今、どうやって抜いたんだい?」

「よく、今の状況でそれを聞くな?」

男は王子のマイペースさにさすがに本気の苦笑をした。

「さて、この状況……いくら放蕩王子でも察するだろ?」

「まぁ、そこまで平々凡々とは生きてないからね。ただ、2点ほど確認を取っておかなきゃ、こっちもむざむざと切られる気はないよ?」

「ふん、なんだ?」

「君は緋の人かな?」

王子の問いに男は動揺した。
もちろん、それを態度にまで明らかには出さなかったがズバリ言われて男は反応しないわけがない。
そして見抜いていた王子だからこそ、僅かな動揺を見逃さなかった。

「あれ、ただの放蕩王子だと思ったかな?」

「いいや、一応は聞いていた。ただ、実際そこまでとは思わなかった。それだけだ」

「ふむ。ではもう一つ確認させてもらっていいかな?」

確かに王子は二点確認したいと言った。
男もこの王子がどこまで化けているのか、気になったため注意深く聞くことにした。

「緋の人間はどこまで把握しているのかな?」

「な、なんだと?」

王子の言っていることが男はまるで分からないわけではなかった。
しかし、指していることは分かってもそれに対して男が答えられるかとなると話は変わってくる。
つまり……

「ふむ、君はそこまでの立ち位置ではないのか」

「っ!」

男は少し下げていた剣先を上げ、構え直した。
この王子は表の情報、そして裏の顔、総合的に照らし合わせてもまだ底を見せてはいないと。
ここで殺っとかなければ不利益でしかないと判断した。
しかし、剣を構えても王子は涼しい顔をしていた。
男は殺気を放ち、普通の人でさえ斬られると察することが出来るはずなのに……
そう思うと男は逆に動けなかった。

「剣を構えた以上、躊躇したらやられるよ?」

「ぐっ!」

余裕綽々の王子にイラっとした男は手足に力を入れて一歩を踏み出し、斬りかかった。
しかし、その瞬間だった。
王子と男の間に氷の壁が突然現れた。


蒼の十字架46
「ん~?でも中途半端に起きられたりしたら面倒じゃないですか~?」

「まぁねぇ」 

行動には引いていた王子だったがどっちかというと王子は基本、ノリはこうだから悪い気はしていなかった。

「それで、藍に行く気になったんですね~?」

「まぁ、ちょっと行かないわけにはいかない状況だろう」

「いっそ、藍にくればいいじゃないかですか~?」

「一応、俺の立場って蒼の王子だからね」

「だからこそ、藍にとっては嬉しいんですよ~?」

「それはそうだろうね」

マイペースが丸見えなこの女性に対して自由奔放と言われている王子もちょっとペースを崩されていた。

「ま、それはそれとして行きましょうか~?」

女性が先に抜け道から城の外に出て、王子は倒れているタイセイに文字の書いた紙を服の中に忍ばせ、女性の後に続いて外に出た。

「さ~て、私がここにいることバレたらメンド~だし、早く行きましょうか~」

「その前に買い物したいから、待ち合わせ場所決めないか?」

「その手には乗りませんよ~?私から逃げられると思って~?」

「いや、俺が藍に行くのは俺の意志。行く必要もあるしな。だから、必ず合流するから」

王子の言葉と目を見て女性は少し考えてから頷いた。

「ん、分かりました~。信用しましょう~」

そういって王子の両肩に手を置いて、なんか呟き出した。
王子は身体が何かに包まれた感覚を覚えた。

「今のはまじないです~。今日中に藍の敷地内に入らなければ王子の身体は凍りつきます」

「全く信用してねーじゃん」

王子は苦笑しつつ、待ち合わせ場所とある程度の時間を女性に告げて城下町へとおりていった。
女性は王子の言われた場所が若干分からなかったため、そこを探しに行くことにした。
しゃべり方からも分かる通り、間の抜けた性格みたいだ。


蒼の十字架45
一方、その頃、その話題の蒼の王子の動向に視点をようやく向けようと思う。
城をいつも通り抜け出そうしているところからだ。

「さてと、サクは今、来れないはずだから今のうちに……」

王子が城を抜け出すルートは一つではない。
サクが潰せば潰すほど王子も新たに見つける。
もちろん、穴を開けるとかではないが城の性質上、他国に攻められたさいに裏の抜け道的なものは限られた上の人間は知っている。
当然、サクも王子も知っているからの駆け引き……いや、不毛なやり取りが続いている。
そして王子がそこの場所に近づいていった時にとある人物が声をかけた。

「王子、どこにいかれるので?」

「ッ!?」

王子が慌てて声の方向を見ると男性がニッコリと笑って立っていた。
その男性を確認すると王子は大きなため息をついて、目を細めた。

「驚かせるな、タイセイ」

「なに、オレって分かって安心してるんですか?」  

「もちろんお前なら……」

「サクさんに伝えるっすね」

タイセイのあっけらかんとした態度でいい放った言葉に王子は顔色が変わった。

「ちょっと待て!お前、裏切るのか!?」

「いやー、直属の上司はサクさんだから」

「俺はその上だぞ?」

「だから見逃して来ましたがそろそろ捕まえないとサクに問題がいったらさすがにオレも考えもんかなーって思って」

今まで割と王子の動向を見張っていたタイセイ。
もちろん、サクの指示だがそれでも王子は抜け出してきた。
どうしてそんなことが出来たのか、その理由は……

「その様子だと今まで通りの金額じゃ済まなそうだな」 

最低な理由だった。
王子としての権力を使うよりタチが悪いがそれで見逃してきたタイセイもタイセイだ。

「いやー、今回ばかりはね、見逃せないんすわ」

タイセイのお金にも揺るがない言葉に王子は何かに勘づいた。
まぁ、お金で本来、王子を城から逃がしていたタイセイがここまでお咎めがないのも大分、問題なのだがタイセイも今回は逃がさない気らしい。

「さてはお見合い話、まとまったな?」

「さぁ?オレじゃ分からないですけどサクさんが色々と多方面からの連絡を請け負ってるんで可能性は高いかもっすね」

タイセイの言い方でタイセイが本当に知らないことは分かった。
そして恐らく、お見合い話は進んだこともある程度、事実であろうと思っていた方がいいだろうと王子は察した。

「ふぅ、仕方ない。タイセイ、引く気はないか?」

「いや、オレのセリフなんだけどね」

そう言った途端、タイセイの身体に痺れが走り、その場に倒れ込んだ。
王子は少し顔を歪めた。

「ちょいとやり過ぎじゃね?」

さすがの王子も引く感じではあったらしい。




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