蒼の十字架19
「やるな」

「あら、身を隠すのは終わりかしら?」

「こういうのは本来、性分ではないのでね」

暗闇から男が足音を出さずに女性の前に現れた。
実際に対峙すればより分かる。
この男は自分より実力は上だということ。
そして明らかに今までの仕掛けは試されていたのは発言からも明白だ。

「女狐のリノ。流石の動きだな。悪くはない」

「その呼ばれ方は非公式よ?」

「二つ名なんてそんなもんだろ」

「で、あなたは?」

「カゲミ」

「あなたが?」

カゲミと名乗った男はこの近隣の国に住んでいる者ならほとんど聞いたことがあるだろう。
しかし、姿を見たものはいない。
いや、実際には見た時は最期、生きてはいない。

「死神のカゲミ。誰の依頼で私を?」

「殺し屋が依頼人を言うと思うか?」

「あら?死ぬ相手になら言うのかと思ったのだけど?誰に依頼されたのか気になるし」

「なるほど。後の活動に検討しておこう」

牽制しあいながら互いに笑みを浮かべる女狐と死神の異名を持つ二人。

「それで教えてくれるのかしら?」

「残念ながら無理だな」

「あら、それは残念ね。理由は?」

「依頼人がいないからな。女狐のリノがどの程度のウデなのか、試した。それだけだ」

死神はそう告げるとあっさり女狐に背を向ける。

「また会うだろう。その時は手加減しない。まぁ、出来る相手でもないようだしな」

死神はそのまま闇へと消えていった。
気配が完全になくなったと感じた瞬間、リノからは冷や汗が出てきた。
今、戦っていたら間違いなく死んでいた。
噂は所詮、噂。
対峙したからこそ真に分かる恐怖をリノは感じた。

「ふぅ。町で遊べる気分じゃなくなったし、仕事はしっかりやりましょうか」

気を取り直して服装を正してリノは城の方に向かって歩き出した。




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