蒼の十字架25
「これからが楽しくなるところじゃん!」

紅戦姫は不満そうな顔というか完全に不満を口にしていた。

「得物、これしか持ってきてねーんだ。お前一人で女狐とアイツの相手は無理だろ」

血閃の言葉に紅戦姫はため息をついた。

「仕方ないなー。今日のところはこれまでだね。また殺ろうね、リノ!」

「今日はまだまだ序の口もいいところだ。これから始まる激動の波についてこれるかな?」

そう言い残し、血閃と紅戦姫は去った。
いつもなら後を追って少しでも情報を得ようとするリノもここは町の状況などを考慮して深追いはやめておくことにした。
猟兵が去って少ししてからようやく兵士たちも現場に駆けつけてナオナリの指示で沈静化を行った。
そしてユウジとリノ、指示を一通り出し終えてからナオナリも加わって倒れているサクを囲んで各々の現状報告と情報共有をすることにした。

「とりあえずリノ、本当に助かった」

ユウジはまず、助けに入ってくれたリノに感謝を述べた。

「しかし無理をし過ぎだ。血閃と紅戦姫の二人相手に一人で戦うなんて冷静なお前じゃ考えられないんだがな」

言葉は厳しいことを言いつつナオナリの目は明らかに笑っていた。
というか意地悪くからかいモードだ。
女狐のリノが苦手な相手がそれはこのナオナリなのだ。
戦いにおいてという意味ではなく、ただ単に話せる相手としてリノはナオナリに口では勝てない。
その理由は簡単に言えばナオナリはリノの秘めたる想いを知っているから。
ナオナリは人の心を読むのにも長けているようで上の立場、例えば王族などの関係性を除いてナオナリに対抗できる相手は片手で数えられたらいい方だ。

「だ、大体、こんな時にナオナリさんがいない方が問題じゃない!私がいなかったらユウジさんもサクさんも死んでたわよ!?」

「おー、確かにそりゃ大変だな」

ニヤニヤとするナオナリにリノはもういいと言わんばかりに顔を背ける。
ユウジはいつもリノがナオナリに対してだけこういう感情が揺れるのは疑問に思っているのだがナオナリ相手にしている人はほとんどそんな感じになるため、リノも例外ではないのかなっていう自己完結に落ち着いている。

「んで、なんでサクさんは倒れてるんだ?」

ナオナリは一応冷静に聞いた。
見たところ猟兵にやられたわけじゃなさそうだし、ユウジもリノもそこまで心配してる様子もないからなのだが。

「あぁ、それはリノが吹っ飛ばしたから」

ユウジがあっさりと教える。
ただリノは慌ててフォローする。

「し、仕方なかったんだって!あの状況で紅戦姫の乱発から二人守るのは厳しかったから近かったサクさんを離してユウジさんの方を自分で守ったの」

「つまりサクさんよりユウジをとったと」

「違う!なんでそうなるのよ!?」

ナオナリは誰が相手でも話の主導権を握るんだなとユウジは感心していた。
今更になるがリノが女狐と呼ばれているのはその戦闘力もだが巧妙な手口や話術で人を騙し、情報を得たり、撹乱させてその事態を自分の都合のいいように自在に変える上手さを持っているからだ。
次第にリノの存在は知られるようになり、女狐と呼ばれるようになった。
ユウジはリノとそのように呼ばれる前から知っている仲で性格も分かっているからこそ別に女狐という異名にいい意味でも違和感はないのだが、だからこそナオナリ相手にからかわれてる方が違和感があった。




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